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人事制度設計の勘所

2013.8.25

 

当事務所の主なサービスの一つに、中堅・中小企業の人事制度改訂支援があります。会社により、創業からの生い立ちも違えば、業種によっても働いている社員の方々の考え方や思考のくせなども異なるので、具体的な制度設計の議論を進める前に、現状をしっかり把握する工程は欠かせません。人事制度の説明資料や就業規則、社員の給与情報、人事評価の履歴など、多岐に渡る資料を整理・分析することはもちろん行いますが、一番重視しているのは、そこで働いている人たちへの直接のインタビューです。


書類や人事情報の分析段階では、経営者や人事部門の責任者へのインタビューを通じて、数字の裏の実態を読み取ることがある程度可能ですが、これだけでは、間違うことが少なくないというのが現場での実感です。特に、当事務所では、M&Aに関連して人事制度改訂を支援する場合も少なくありませんので、通常の場合と比べても、経営と社員の間で認識の格差が生じやすい環境にあると考えられます。


社員へのインタビューは、グループ形式で行うことが多いですが、経営者や人事部長から聞いていなかった話が出てくることが普通です。労使の認識が完全に一致していることは、立場が違うのであり得ないとも言えますが、認識の格差が大きいまま人事制度を新たに構築したり、今あるものを改訂しても、実際に意図していた効果が上がらないばかりか、逆効果となる場合も少なくないといえます。


よくあるパターンとして、離職率が高まっていることに危機感を持ち、それまで抑制してきた賃上げや賞与の仕組みをしっかり設計して、社員の流出に歯止めを掛けたいというものがあります。給与を上げれば社員の退職を止めることができる、という暗黙の前提があるわけですが、直接社員の声を聞くと、単に給与が問題であるということは、ほとんどないと言ってよいと思います。たとえば、大体以下のような声が出てくることが多いです。


「金銭的な処遇はもちろん重要だが、経営が現場のことを知らないで経営していることが我慢できない。」
「評価する人が、私たちの仕事を分かっていない。」
「組織内のコミュニケーションがない。」
「経営が何を考えているのか分からない。」
「どうすれば評価されて、処遇に結びつくのかわからない。」
「やってもやらなくても同じ。(なので、やらない)」

その他、枚挙に暇がありませんが、どの会社にも共通しているのは、給与を含む人事制度だけを変えても、期待した効果は限定的になる可能性が高いということです。上記の社員コメントの一例からも分かるように、「なぜ会社は、この業務プロセスを変更するのか?」、「どういう人材を会社として評価しようとしているのか?」という疑問に明確に答えられる必要がありますし、また、「組織内のコミュニケーションが取りにくいという現象の根っこにある根本原因は何か?」、「管理職のポジションに適切な人材が配置されているか?」等々、常に、組織を最善の状態に維持するための分析と施策の実行と効果の検証を繰り返していくことが求められています。

社員の意識調査を行うと、インタビューで出てくる組織・人事上の課題が、数値として具体的に確認できます。多くの意識調査の結果を踏まえて言えることは、金銭面の処遇改善をしても、社員が喜ぶのは束の間で、経営の質と組織風土が改善されなければ、本当の意味で、社員が会社に対する忠誠心を持ったり、働き甲斐を感じて仕事に打ち込む状態は実現が困難であるということです。


ブータンのGNH(グロス・ナショナル・ハピネス:国民総幸福量)という指標があります。国としてGNHの向上を最重要指標として、国の政策を決定している稀有な国家ですが、先進国と比較して金銭的な処遇や文明としての利便性は決して高くないにもかかわらず、同国の調査によると、自分は幸福であると感じている国民は、約97%に達するということです。


クライアント会社のグロス・カンパニー・ハピネスを高めることが、当事務所の存在意義であると思っていますので、ブータンのことは、これから研究してみようと思っています。労使ともに元気になることが、地域の元気、社会の元気につながるかと思いますので、新たな気づきがありましたら、また報告させて頂きたいと思います。
 



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