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裁量労働制の改訂と人事評価

2013.10.5

 
厚生労働省が、裁量労働制の適用を拡大する方針を固めたようです。9月27日から労働政策審議会(厚労省の諮問機関)で議論を始め、2015年の通常国会に労働基準法の改正案を提出することを目指すそうです。(日経新聞記事より)
 
改正のポイントは、(1) 適用対象業務の拡大、(2) 対象業務を企業毎に労使間で決められるようにすること、(3) 手続きの簡素化、という3点が挙げられています。
 
現在、労働基準法上の裁量労働制には2つのタイプがあります。法律で対象職種を限定した専門型の裁量労働制は、新規商品開発や研究開発などの特定の職種を対象としています。もうひとつは、企画型の裁量労働制で、企画・立案・調査・分析の業務を行うホワイトカラー職種が対象です。

働いた結果としての成果に基づいて処遇を行うということが、裁量労働制の基本的な考え方となっていますので、効率的に成果をだせれば、短時間労働で高い処遇が実現できるという労働側のメリットにつながる反面、想定時間内に期待水準の成果が出なければ、実質的に成果が出るまで働き続けざるを得なくなるか、あるいは、低い処遇を甘受せざるを得ないという負の面もあるわけです。

いずれの裁量労働制も、別の言い方をすれば、時間外労働手当の支給対象となる一定層の社員に適用された場合、経営側からみれば、通常の時間外労働手当の支給を免れる制度ということです。新聞や雑誌の論調をみると、多くの場合、良い面にスポットライトを当て、労働者側の潜在的なリスクについては、深く突っ込んだ記事は少ないようです。
 
現場での実務を通じた個人的な感触としては、効率的に成果を出してワークライフ・バランスの改善につながるというのは、一つの希望的観測であって、策を講じなければ、絵に描いた餅になる可能性は低くないと思います。
 
現在裁量労働制を適用している多くの会社では、実態として、通常の始業時刻に出社し、定刻の終業時刻を過ぎても他の社員との協働もあるため、自分の仕事が仮に片付いたとしても、「お先に」と言って帰宅するわけにはいかないという声を良く聞きます。
 
特に裁量労働制が適用される階層は、独り立ちした入社数年クラスの社員から管理職一歩手前の社員層までですので、経営陣と管理職も含めて、長時間労働に対する価値観を根本的に改めるための施策を継続的に打っていかないと、結局、経営側の人件費削減ツールとしての効果以外は達成できないリスクも小さくありません。
 
成果を出したら早く帰宅できるというのも幻想かもしれません。日々きっちりと成果が出ているかどうかを測定することは困難ですし、集団で仕事を進めることが少なくない会社組織において、本人だけの意向で出社・退社時間を裁量を持って決めることは、一部のプロフェッショナル職種を除いては、決してやさしいことではないと思います。
 
労働の質を重視した働き方は、外資系企業のほうが、半歩先を行っているかもしれません。例えば、就業規則に裁量労働制やフレックスタイム制を規定していなくても、出社・退社時間を日本企業のように厳しく管理しない会社も少なくないですし、早朝や深夜に海外との電話会議に対応するため、スマートフォンを支給するなど、必要な時に必要な時間だけ働くためのインフラが提供されています。
 
日本企業で発生しがちな、上司が帰社する夜まで社内で待機しなければならないとか、重要な会議は関係者が集まれる夜間に行われるなど、いわゆる待ち時間が発生するような状況は相対的に少なく、待機時間のような密度の低い労働時間は、日本企業ほどは存在しないかと思います。
 
結局、プロの職業人として労働の質で勝負することが厳格に求められているという大前提があるわけです。結果として、期待水準の働きができなければ、降格や退職勧奨なども日本企業の場合よりも頻繁に発生しますが、それはプロとして背負わざるを得ない宿命的な部分でもあります。
 
日本企業が、このような外資系企業の人材マネジメントを全て模倣する必要はないと思いますし、また真似するべきでもないと思いますが、お題目はともかく、裁量労働制の改正議論は、ややもすると、経営側が実質的な人件費削減のみを目指しているように見えてしまうのは良くない状況なので、労使双方の観点から、現実的な議論を展開してもらいたいと思います。
 
社員に甘くするということではなく、バランスのとれた議論が、実効性の高い施策に結びつくと思うので、今後の労政審の議論に注目したいと思います。また、裁量労働制の拡大実施で、ワークライフバランスの改善が期待できるという議論もありますが、「ワークライフバランスとは何か?」ということは、結構深いテーマですので、そのうち、このブログでも考えてみたいと思います。また、タイトルにつけた人事評価との関連は、記事が長くなってしまったので、別途改めて書きたいと思います。


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