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人材育成と組織風土の関係

2013.10.12
 

JR北海道の安全管理体制が問題になっており、様々な要因が挙げられているようですが、組織的な要因も絡んでいるという論調が目につきますね。旧国鉄から民営化した際に人員の整理を行った影響で、現場を監督するべき中堅人材層が質・量ともに薄くなっているということも影響しているのでしょう。

JR北海道の件について、実際のところは分かりませんが、企業で働く社員の意識調査を重ねる中で、組織風土と社員の倫理観の相関関係については、何か因果関係があるだろうと思っています。

業務量に対して絶対的な人材量が不足していたり、人数はいても必要なスキルや専門知識がないために、仕事がうまく回らないという状況はよく見られます。こういう状況に対して、現場を知らない経営陣が数値上の分析だけで対応方針を決めたりすると、現場が疲弊します。

適正な人材量は数値を分析すれば見えるかもしれませんが、競合会社と同じ水準に合わせようとして現場サービスの水準が低下して自社の強みを削いでしまったり、安全にかかわるような業種では、致命的な事故などにも繋がりかねません。人材の量は足りているが、実際にその仕事をこなせるスキルや経験をもった社員が不足しているという場合は、一般的な経営指標からは見えないですから、経営陣が現場を知らないと誤った経営判断をしてしまうリスクが一層高まります。

こういったリスクを未然に防止する観点からも、社員の意識調査を通じて現場の実態と社員の意識を把握することは、意味があると思います。組織規模が大きくなれば、経営者が直接全ての現場を把握することは、物理的にも時間的にも困難になりますので、こういったコミュニケーションチャネルを定期的に持っておくことは、社員にとっては、現場で感じる矛盾を経営に対して直言できる良い機会に成り得ます。経営陣からしてみれば、普段把握している問題・課題認識の内容・水準が正しいのか、現場の認識とどれだけ乖離しているのか、あるいは、全く認識していない潜在的な問題が生じていないかについて把握することができます。


これまで意識調査を通じて組織の状態を診断してきた経験を踏まえると、社員が悪意を持って組織風土を乱しているとか、怠けて働かないというようなケースは、特定の個人の問題は別として、集団の組織の課題として上がってくることは、全くと言っていいほどありません。基本的に、「組織に貢献したいという高い意欲」を多くの社員が持っていますが、その意欲を方向づけて、具体的な行動に結びつける動機づけの仕掛けが弱いことが多いようです。

会社側にしてみれば、「自律的に考えて行動する」ことを社員に求めますが、一介の一般社員にとって、巨大な組織に対して物を申すのは、勇気も入りますし、仮に何か提言してみても、組織が一定の規模を超えると本当の意思決定者まで声が届きにくいため、よほど現場の実態が劣悪か、その会社に対する愛社精神が溢れた人材でない限り、黙って我慢するか、静かに組織を去るというのが、一般的な人の感覚ではないでしょうか?

そういう意味では、現場の監督者である中間管理職の役割は、極めて重要です。管理職の役割が重要というのは、至極当然な話ではありますが、世の中、中間管理職のパフォーマンスを向上させるという課題に取り組んでいるものの、目の覚めるような成果を上げているという話は、あまり聞きません。

人員の効率化を経て、組織の管理業務に加えて、担当の業務もこなすプレーイングマネージャーとしての役割を求められている中間管理職は、健全な組織風土の維持や部下一人一人の声をくみ上げて、積極的に経営に提言していくようなことは、限られた時間の中では、とても難しいと言わざるを得ない状況と思います。


やはり過去の意識調査で出てきたことですが、若手から中堅の社員が、新しい部署に異動した直後1年ぐらいの間に不祥事を起こす傾向が強いという組織がありました。他の質問項目との相関関係を調べていくと、「異動後の社員のフォローアップ体制が整っているか?」という質問に対する肯定的な回答が、不祥事が起こりやすい部署では相対的に低い傾向にあることが分かりました。

中間管理職が忙しい ⇒ 部下の社員が育たない・ストレスが高まる ⇒ 離職率の増加・不祥事(?)⇒企業ブランドの毀損・組織力の低下 というような負の連鎖が起こっている組織体が増えている可能性は少なくないと思います。

先日発表されたOECDの調査では、読解力などの基礎的能力は、年齢とともに低下していく傾向が強いということですが、日本人はその低下傾向がゆるやかであり、また、40代前半ぐらいまでは、むしろ能力が向上し続けるという調査結果でした。人材を育てる日本の企業文化が、学校を卒業した後の能力の継続的な伸長に寄与しているのではないか、という識者の見方が出ていたと思います。

こういった日本企業の良い文化は、是非次世代に引き継いでいきたいと思いますので、身の回りで手の届くところから、当事務所の顧問先や将来、自分の事務所も含めて、対応をしていきたいと思っています。そして、10年後の夢としては、大企業も含めて、活き活きした組織づくりに資するサービスを通じて、社会に貢献できれば、と思います。



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