ホーム > 中小企業の報酬戦略

中小企業の報酬戦略

2013.11.2
 

日経新聞などの一般新聞の紙上で、上場企業の賃上げは平均で○%、夏季賞与の平均支給額は、△ヵ月分という記事を目にすることは少なくないかと思いますが、非上場企業で、もっと規模の小さい企業の状況がどうなっているのかについては、正確な状況を把握することは簡単ではないと思います。そこで今回は、中堅・中小企業の賃上げ、夏季賞与の支給状況について、最新の統計数値を踏まえて、人材マネジメントの観点から考えていきます。
 
まず賃上げですが、連合、経団連、東京都等による調査結果では、2013年春の賃上げ率は、いずれも1.6%~1.9%台という結果で、金額ベースでは、4,900円台~5,900円台となっています。(いずれも平均値)一方、中堅・中小企業という括りで統計数値を把握できるもので確認すると、経団連調査の中小企業(社員500人未満)では、平均賃上げが、1.63%、金額で4,085円(全産業平均)となり、金額ベースでは、先に挙げた大手企業を含む平均値と比較して2~3割程度賃上げ額が低くなっています。賃上げ率は大企業を含む統計数値と比較して遜色ありませんが、金額ベースで賃上げ額が少なくなっているのは、算定の基礎となる基本給水準の格差が影響している形になっています。
 
また、東京都の調査では、社員299人以下の会社の平均賃上げ率は1.79%、金額ベースで5,260円です。業種別でみると、平均賃上げ額が1,000円台の運輸業・郵便業から、8,000円台の情報通信業までばらつきがあります。
 
社員数が100人未満、50人未満、30人未満の統計数値は、残念ながら公共の資料では確認ができませんが、「基本給 X 〇%の賃上げ」というルールがあったとしてもそれに縛られることなく、業績見通しと社長の意向により、裁量で各人の昇給額を調整して決めていることが少なくないのではないかと思います。
 
小規模組織の良いところは、社長や経営陣が、社員全員の働きぶりや強み、人柄まで把握できていることで、これらを総合的に勘案しながら、トップが賃上げ額の配分を柔軟に実施できる点が挙げられます。トップが実務まで含めて、全体を把握している場合、人心の掌握レベルも高いことが多く、裁量による賃上げ決定がうまく機能することも少なからずあります。10人から20人ぐらいまでの規模であれば、経験上、トップの裁量によって決めるメリットが、活かしやすいと思います。
 
一方、20人を超えると、弊害も目につくようになります。トップの裁量による賃上げ判断の根拠に対して疑念が生じる余地が大きくなってくるからです。トップが、一人一人の実務上の役割や仕事環境、組織や業績への貢献度などを本人の納得感のあるレベルで共有することが困難になってくるからで、「社長は、俺・私の仕事を分かってくれていない。」という感情が生じやすくなります。
 
超人的な社長でも50人を超えてくると、もはや一人の人間が適切に判断できるレベルを超えてきますので、このあたりの局面で、賃上げの決め方を含む人事のあり方も、客観的な仕組み化が必要になってきます。トップ一人が全てを決めるワンマン企業から、組織力・仕組み力で成果を上げていくことが求められる企業の第二ステージの始まりと言えます。
 
賃上げのルールを社内に示すということは、通常は人事評価の結果をどのように賃上げに反映させるかというルールとワンセットになります。これを示すことで、社員にとっては、頑張る方向性や目指すべき水準が可視化されるため、「社長の見えるところだけで頑張ろう」という類のモラルハザード的な考えを防ぐ効果もあります。
 
但し、全てをルールに則って自動的に賃上げ額が決まるようなことにすると、仕組み化の落とし穴にはまってしまうリスクもあります。仕組みはあくまでも基本形であって、全ての状況に必ずしも適切に対応できるとは限らないからです。個別の状況に応じて、一定の裁量を持って調整ができる部分は、仕組みの中の一部として残しておく方が、現実には、適切な対応が可能になるでしょう。

個々の評価項目の評価結果を一つずつ積み上げた結果としての総合評価について、機械的な計算式で自動的に総合評価を出して賃上げや賞与額が決まるという分析的な仕組みは大企業で多くみられますが、仕組みに基づいて算出した総合評価結果に違和感を覚えるということも少なからず発生します。細かい要素にどんどん分けて行って結局全体を見失ってしまいがちな現在の西洋医療の在り方にどこか似ている感じもします。

大企業で流行っている先進的な制度を導入したいという声も時々聞くのですが、流行りのものが正しいとは限りませんし、また大企業に合う制度が中小企業にも適切かどうかは分かりません。全体を見失わずに個々の領域も見るというバランス感覚を人事制度を通じて具現化するということが必要なのだと思います。古くて新しい課題ですね。長くなりましたので、賞与に関する話は、また別の機会に考えたいと思います。


クライアント企業の声

過去の記事