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短時間労働者の社会保険

2013.11.23
 
 
短時間労働者(パートタイマー)に対する社会保険(健康保険、厚生年金)の適用拡大が、平成28年10月1日から施行されます。あと3年ですね。当面は、501人以上の企業に適用されることになりますが、パートタイマーの比率が高い小売業や外食産業などは、雇用戦略の見直しが必要になってきます。
 
本人の意向もあるため急には雇用契約の内容を変更しがたい状況も考えられますので、パートタイマーで1年契約を繰り返している場合、いまから約2年後の契約更新時には、法改正を見据えた慎重な対応が必要になりますので、思ったほど時間的な余裕はないと思います。
 
現在の短時間労働者の社会保険の適用条件を整理すると以下のようになります。
 
厚生年金・健康保険:正規労働者(正社員)の4分の3以上の所定労働時間(一日および一週)、かつ、月間の所定労働日が正社員の4分の3以上ある場合、適用対象となります。つまり、正社員が週40時間の所定労働時間である場合、30時間以上/週の所定労働時間で、かつ、週4日以上の勤務であれば、社会保険の適用対象です。
 
これらの適用条件と所得税法上の非課税限度額である年収103万円、あるいは、健康保険の被扶養者認定基準である年収130万円未満を考慮して、できるだけ手取り収入が多くなるように調整することが行われているのが、多くの企業での実態ではないかと思います。
 
この基準が平成28年10月以降は、以下の通り変更となります。
 
(1) 週所定労働時間が20時間以上
(2) 月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)
(3) 勤務期間1年以上
 
これらの条件を満たす場合、会社と本人に対して、厚生年金と健康保険の保険料が課されますので、双方にとって当面の負担は重くなります。一方、将来年金が支給されますので、本人にとっては退職後の生活の支えが多少は準備できるということはありますが、やはり、当面の負担増を回避する動きが主流になるのは避けられないと思います。
 
社会保険の適用が拡大された場合の会社の対応方針について、最近のアンケート調査によると、「適用拡大要件に該当しないように所定労働時間を短縮する(32.6%)」、「適用拡大要件に該当しないよう賃金設定を見直す(24.3%)」(複数回答)という回答傾向から、人件費上昇を抑制するための対策を検討する企業が多くなりそうです。
 
一方、「短時間労働者の人材を厳選した上で、長時間働いてもらい雇用数を抑制する(30.5%)」というように、人材の質を見極めたうえで、有能な人材の活用を進める意向の企業も少なくありません。
 
パートタイマーを純粋にコストとみる企業と、人的資源と捉える企業に分かれていくことが想定されます。どちらのアプローチが正しいかは、企業の置かれた状況によって変わるので絶対的な正解はないと言えますが、全てをコストと割り切って進めることは、必ずしもビジネスに良い影響を与えないかもしれません。
 
パートタイマー側の意向としては、「社会保険の適用拡大に伴い働き方を変えると思う」人が61.8%を占めており、そのうち、「社会保険が適用されるよう働く時間を増やす」という回答が42.3%(複数回答)と最も多い状況で、これは少し意外な感じです。パートタイマー全体の4人に1人は、今回の法改正を機に社会保険の適用を望んでいるという結果です。逆に「社会保険が適用されないよう働く時間を減らす」という回答は14.5%で、全体の8.9%に留まっています。
 
これらの会社側とパートタイマー側の意向を踏まえると、近い将来、有能なパートタイマーの人材獲得競争が激化することが想定されます。会社としては、自社のパートタイマーに対する社会保険の適用拡大を少しでも防いで人件費の増加を抑えるために、全体としては、所定労働時間の短縮化を進める方向に動きますが、パートタイマーの4人に1人は、労働時間の増加の意向を持っているため、摩擦が生じる可能性があるからです。
 
これら働く意欲の高いパートタイマーの中に、一定の割合で有能な人材が含まれていると考えられるため、特に首都圏をはじめとしたパートタイマーの働き口が多いと想定される地域では、単純な人件費抑制の観点だけで考えていくと、有能な人材の流出を招く恐れがあります。
 
それでも労働力としてのパートタイマーは集められるかと思いますが、彼らに「考えて動け」とか、「仮説を立てて検証しましょう」など、現場でPDCAサイクルを自律的に回していくような役回りは期待せず、かなり割り切って、与えた職務を忠実にこなすことができればよしとする方針に徹することが求められるようになるかと思います。
 
一方、これまで優秀なパート社員が集まりにくかった企業にとってはチャンスです。パートにも責任ある仕事を任せたり、正社員へ登用する仕組みの整備も含めて、有能な人材を獲得する機会が到来したという見方もできるからです。正社員で採用する場合と比べれば、パートタイマーの間に資質の見極めもできるので、結果的に、有能な人材の獲得コストを下げることも可能になるかもしれません。
 
いずれにしても、今後の法改正を見据えて、パート社員の働き方に関する意向を確認し、きめ細かな雇用形態面の対応を検討していくことが、近い将来の業績に与える影響は小さくないと言えるのではないでしょうか?


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