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労基署の立ち入り調査

2013.12.14

労働基準監督署の法的権限

人事・総務担当の方は、就業規則や労使協定の届出などで労働基準監督署を訪れたり、問い合わせの電話をすることがあると思いますが、そもそも労基署は、どのような権限を持っていて、何を指導・監督する機関なのでしょうか? 竹内結子さん主演の労働基準監督官が活躍する水曜ドラマのダンダリンは、先週最終回で終了してしまいましたが、労基署が何をやっているところなのか、認知度の向上には一定の貢献があったように思います。そこで今日は、労働基準監督署の法的な位置づけも踏まえながら、監督署による立ち入り調査の内容、及び、その対処策について解説したいと思います。
 
労働基準監督署とは、労働基準法に定められた最低限の労働基準について、事業者が遵守しているかどうかを監督することを主たる業務とする機関です。その他にも、労働災害防止の指導や労働保険料の徴収、未払い賃金の立て替え払い事業なども行っています。
 
労基署が企業に立ち入り調査を行う際に、実際に調査に来る人は労働基準監督官と呼ばれる人たちです。彼らは、法律上、2つの権限を持っています。ひとつは行政監督権限で、労働基準法などが遵守されているか調査する権限です。この権限により、立ち入り調査を行うことができるわけです。
 
もう一つは、特別司法警察権限です。耳慣れない言葉かと思いますが、これは、刑事訴追法に規定されている司法警察官の職務を行えるということです。つまり、労働基準監督官は、この権限を付与されていることで、労働基準法や労働安全衛生法に違反している場合、法令違反の罪で、事業者を逮捕し、送検する権限をもっているということです。ダンダリンでも、ブラック企業の社長が、会社に乗り込んできた労働基準監督官に手錠をはめられ逮捕されるシーンがありましたね。ドラマなので、かなり誇張が入っていましたが。
 
逮捕という言葉が出てきて驚かれたかもしれませんが、現実の世界では、いきなり会社に乗り込んできて、「逮捕する!」ということにはなりません。まずは行政監督権限に基づき、会社への立ち入り検査を行い、実態の調査をおこなうことから始まります。調査は、(1)定期監督、(2)申告監督、(3)災害時監督に分類することができます。このうち、定期監督と申告監督について、見ていきたいと思います。
 
定期監督は、労働基準監督署が作成する年度計画に基づき、あらかじめ選定した会社に対して行う調査です。調査の形態は、基本的に現場への立ち入り調査となり、労働条件や安全衛生全般について、広く調査を実施します。定期監督で是正勧告などを受けた事業所に対して後日行われる調査が、再監督です。
 
一方の申告監督は、労働者・社員からの法令違反等の申告に基づいて行われる調査です。この場合は、労基署に出頭させられる場合が多いようです。時間外労働(残業)手当の未払いなど、賃金関連の未払いの場合は、申告監督のケースでは、賃金債権の時効である2年前まで遡って支払いを命じられることが多いようです。
 
定期監督・申告監督のプロセスは、あくまでも行政指導として位置づけられますが、この流れの中で、重大な法令違反や極めて悪質な場合、また、社会的な影響度が大きい場合や労働者・社員が告訴・告発した場合などは、逮捕、送検という可能性も出てきます。
 
 
労働基準監督署による調査のタイプ
 
ここまで定期監督と申告監督の概略を記載しましたが、その進め方は、いくつかのパターンがあります。定期監督で多いのが、パトロール型です。 このタイプは事前の連絡もなく、突然、労働基準監督官が会社を訪問して、調査を行うものです。この場合は、日程の変更を行うことは困難ですが、社長や人事役員等、実際に対応できる人が不在の場合は、別の日程に替えることもあるようです。
 
その他、予告型、集合型(労基署に複数の会社が呼び出されて集団で指導を受ける)、呼び出し型というパターンがありますが、こちらは、日程調整に応じてもらえる余地が高いようです。集合型と呼び出し型は、いずれも労基署を訪問して、労基署内で指導を受けるわけですが、実際に行ってみるまで、先に説明した定期監督なのか、社員から申し入れがあった申告監督なのか区別がつきませんので、いずれにしても、しっかりした準備をして当日を迎える必要があります。
 
調査で求められる書類
 
調査では様々な書類の提示が求められます。先日、現役の監督官が使用している調査時に依頼する書類リストを入手しましたので、その内容を下記に記載します。
 
【労務管理関係書類】
Ÿ 事業場の組織が分かるもの(組織図等)
Ÿ 就業規則
Ÿ 労働者名簿
Ÿ 雇用契約書あるいは労働条件通知書
Ÿ 時間外労働休日労働に関する協定書
Ÿ 賃金台帳(最近数か月分)
Ÿ 労働時間管理を行っているもの(タイムカード等で賃金台帳に該当する労働時間が分かるもの)
Ÿ 賃金台帳に該当する時間外労働が分かるもの
Ÿ その他労使協定、労使協定届(ある場合)

【安全衛生関係書類】
Ÿ 安全衛生管理体制にかかる書類(組織、規程等)
Ÿ 安全管理者、衛生管理者、産業医専任報告書(写し)
Ÿ 安全衛生委員会の安全衛生にかかる会議等の議事録
Ÿ 定期健康診断などの個人票
Ÿ 定期健康診断などの結果報告書(写し)
Ÿ 長時間労働者(1か月80時間以上の時間外・休日労働)のリスト
Ÿ 長時間労働者に対する面接指導に係る規程、基準等
Ÿ 長時間労働者に対する面接指導の実施状況が分かるもの
 (リスト、問診票あるいはアンケート、面接指導結果を記した書面)
Ÿ 安全衛生教育に関する書類
Ÿ 過去における労働災害の記録(不休災害を含む)
 
いかがでしょうか? 突然訪問されたら、全てを即座に提示することは難しいと感じられるものが少なくないのではないかと思います。基本的に、全て法的に求められる書類ですので、未整備の場合は、徐々にでも管理体制を整備しておかれることがよいかと思います。ちなみに、上記のリストに出てくる安全管理者(建設業等の一部製造業のみ)、衛生管理者、産業医は、社員50名以上の事業所において選任が必要です。まずは入り口として、今回記載した内容から点検をされることをお薦めいたします。


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