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アジア企業のクロスボーダーM&A支援

2013.12.29
 

M&Aが企業にとって一生に一度の一大イベントであった時代は過去のものになりつつあります。今や、国内だけでなく国境を越えたクロスボーダーM&Aが、日常的に日本企業の経営戦略の中で検討され、実行されています。2013年の上期は、件数、金額ともに対前年比で減少したようですが、人口減少社会に突入した国内市場から海外市場へ経営の軸足を移す動きは、今後も中長期的に続いていく可能性が高いと思います。
 
特に東南アジア企業に対するM&Aが増えてきていることが近年の特徴ですが、アジアの企業同士がM&Aを通じて良好な協力関係を構築することは、個人的には、好ましいのではないかと思います。政治的には色々ありますが、民間レベルの協力関係が深まることはアジアの一体化にも資するものでしょう。
 
クロスボーダーM&Aという場合、日本企業が外国企業を買収する「内-外」型(IN‐OUT)と、外国企業が日本企業を買収する「外-内」型(OUT-IN)があります。2012年4月まで在籍していた人事コンサルティングファームでは、この両方のタイプのM&Aに関わりましたが、どちらかというと国内企業同士のM&Aである「内‐内」型(IN-IN)に重点的に関わりたいという思いもあり、独立の道を選んだという経緯もあります。
 
国内案件に関わりたいという背景には、人事コンサルタントであると同時に社会保険労務士の国内法に関する知識を活用することで、クライアントをより一層、効果的に支援することができる可能性が高いということと、そちらの方が、自分自身が楽しくワクワクしたからでもありました。そういう意味では、IN-INタイプを含めて、様々なM&Aの支援を経験した上で、自分の進む道を決められたことは、とても幸運だったと思います。
 
国内法の専門知識を活かせるという意味では、「外-内」型(OUT-IN)も同じです。このタイプもM&Aの難しい状況を紐解きながら関係者の合意形成を進め、また、専門知識を活用して人事諸制度の統合をリードし、社内へのコミュニケーションを展開していくプロセスは、極めてやり甲斐のある仕事です。
 
一方、外資系企業が買収後の主導権を握るため、日本的なマネジメントの良さを必ずしも活かしきれないということを経験から学んだこともあり、独立後は、純粋な国内案件を優先的に追いかけようと思ったという経緯がありました。
 
ところが、最近再び、IN-OUTやOUT-IN案件における人事支援の新たな意義を認識し、年度も変わるこのタイミングで、取り組みを強化したいと思っています。
 
IN-OUT案件については、特にアジア企業とのM&Aに可能性を感じています。日本的経営の三種の神器と言われた、年功序列、終身雇用、企業内組合は、かなり崩壊してきていますが、それでも欧米企業と比較して、長期的に人を育てる企業文化は日本企業に根付いており、グローバル競争に伍していけるよう進化してます。
 
会社毎に組織される労働組合も、聞く耳を持たないような(?)欧米の一部の過激な組合とは異なり、経営の良きパートナーとして、ともに会社を良くしていくという視点も、ある程度共有できる関係性を維持することが可能です。
 
また、完全に入社年次で管理された文字通りの年功序列は、限られた一部の日本企業でかつて運用されていたとはいえ、能力や成果に見合った昇進・昇格と経年的な賃金上昇のバランス、および、適材適所の配置政策は、処遇格差を極端につけない日本的人事制度の運用のほうが、やりやすい面も少なくありません。
 
アジア人の中でも、給与水準の高い欧米系の企業に魅力を感じる人材は、一定割合存在しますが、日本的な経営の良さに魅力を感じる人材もいます。また、欧米諸国に比べ、人材マネジメントに関する考え方が似通った国が多いこともあり、進化した日本的人材マネジメントを拡げ、さらに各国の事情を踏まえて独自化させていく土壌があると感じます。
 
社労士との関係で言えば、これまでは、日本と韓国が、社会保険労務士制度がある唯一の国(?)だったと思いますが、早ければ2014年中に、インドネシアでも、社労士制度が始まるようです。
 
グローバルコンサルティングファームが担ってきたクロスボーダーM&A時の支援について、少なくともアジア地域においては、各国の社労士がネットワークを構築して、グローバルファームによる人事戦略支援と、社労士による人事労務面の支援の補完関係を構築できる可能性があると思います。実務的な内容は、また別の機会にまとめたいと思います。
 
さて、もう一つのクロスボーダーM&AであるOUT-IN案件については、アジアから日本へ進出する企業に対して、欧米の外資企業とは異なったアプローチで支援をできる可能性があるのではないかと思っています。
 
当事務所でも、中国系、韓国系のクライアント企業がありますが、進出先である日本のプラクティスを最大限に尊重したいという意向を感じます。もちろん欧米系企業も日本の法律や市場慣行を尊重する意向を持っているところがほとんどですが、最終的には本国の仕組みにできるだけ合わせたいという意向が強いと思います。
 
あるいは別の角度からみれば、アジア系企業はグローバルでビジネス活動を展開するうえで、欧米企業ほど完成された「型」を持っていない場合が少なくないため、進出先のローカル事情に頼る傾向が強いという見方もできます。
 
いずれにしても、アジアの企業同士が手を組んでいくのは良いことだと思いますので、アジア案件への支援には個人的に力が入る2014年になりそうです。欧米外資企業への支援も、もちろん引き続き行ってまいりますので、引き続き宜しくお願いしたいと思います。


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