ホーム > フロー型の組織・人事

フロー型の組織・人事

横浜社労士のビジネスブログ
2013.10.25
 
 
元ソニー上席常務の天外伺朗氏が提唱するフロー型経営というものがあります。フローとは、アメリカの心理学者が提唱したフロー理論の中に出てくるもので、「我を忘れて無我夢中になって何かに取り組んでいる状態」ということですが、同氏によると、ソニーの創業期の組織の状態は、まさにフローの状態であったということです。
 
組織・人事マネジメントの領域では、性善説と性悪説のどちらを前提にするかによって、管理の手法が異なってきますが、フロー経営は、性善説を基本とした経営手法のようです。あるいは、そのようなレベルを超えて、様々な組織を燃える人材の集団に変貌させる可能性を秘めているようにも感じられます。
 
フローの状態に入るための必要条件として、外発的な動機づけを強くしすぎないことが挙げられています。例えば、成果主義による成功報酬(にんじん)の要素を強く前面に出しすぎると良くないということです。また、指示命令が強すぎると内発的動機付けを抑制してしまうので、これもフローに入ることを妨げるということです。無我夢中になって何かに取り組むためには、強い内発的動機が継続しなければいけないので、これを抑制するような細かい指示・命令をはじめとした管理業務は、不要というわけです。
 
幸運なことに、会社員時代に私もフローの状態で仕事をする機会に何度か恵まれました。私自身の場合を振り返ってみると、確かにこの二つのフローに入る阻害要因は、うまく制御されていたようです。当時所属していた会社では、成果主義的な人事制度を運用していましたが、私が所属していた部署では上司の権限で、個人別の業績の達成度などは問わず、チーム全体の業績のみを目指すべき指標としていました。少なくとも組織構成員は、そのような認識でいたと思います。
 
また、コンサルタントという職種の特徴として、クライアントへ提供する解決策の全体像から細部までをどのように構成していくかという部分は、基本的に本人に任されていましたので、この面においても細かな指示・命令を受けることなく、自由な発想で進める環境が整備されていました。もちろん、成果物の質が全てですので、クライアントへ提供する前の段階では、上司・同僚を含めて極めて活発な議論を行い、成果物の質を究極まで高める過程があります。
 
日本航空の再生を担った稲盛和夫氏は、自燃(じねん)型の人材、可燃型の人、不燃型の人材という言い方をしていますが、組織構成員の全てが自燃型の人材となっている状態がフローの状態と言い換えてもよいと思います。
 
自燃型とは、内発的動機が強く且つ継続的に発動されている状態を指ししており、組織内の人事評価やその結果としての給与・賞与、あるいは、昇格や名誉ある地位への昇進などの外発的な動機づけがなくとも、自ら進んで仕事に没頭する状態を継続的に維持できる人材といえます。
 
こういう状態(=フローの状態)に入っている間は、ワーク・ライフ・バランスということはあまり考える余地がなく、ワーク イズ ライフ という状態になっている人が多いかと思います。(ワーク・ライフ・バランスは、とても重要な考え方と思っていますので、別の機会に考えを述べたいと思います。)
 
フローの状態に入っているかどうかの判断基準としては、アイデアがどんどん湧いてくる、徹夜が続いても疲れ方が少ない、チームの協働関係がとても円滑になる、などがあると思います。ちなみに、ワーク・イズ・ライフになっている人が、全てフローの状態に入っているかというと、必ずしもそうではない場合もありそうです。
 
2010年サッカーワールドカップの南アフリカ大会で日本代表チームを率いた岡田武史監督は、かつては管理型のマネジメント手法を得意としていたということですが、壁に突き当たりフロー型マネジメントに切り替えたところチームが燃える集団と化し、ベスト16進出という快挙を成し遂げたということです。もちろん、他にも様々な要因が絡み合った結果だと思いますが、フロー型のマネジメントが大きな役割を果たしたことは、本人が書籍でも語っているので事実と思われます。
 
これまでみてきたように、フローの状態を実現することは、組織・人事マネジメント上のとても重要なポイントになるかと思います。先にフローに入ることの阻害要因を2つ上げましたが、逆にフローの神髄といえる「内発的動機を如何に長く、高い状態で継続させるか?」という観点からの仕掛けが、意識してフローの状態を実現しやすくするためには極めて重要かと思います。
 
会社・組織の社会的使命に共感しているか、その使命の実践を体現している身近なロールモデルが存在するか、同じ使命感を共有する仲間が組織内に存在するか、というようなことが、必要な条件と思います。こういう組織の状態を継続的に作り出すために必要なことを考え、さりげなく仕掛けていくというのが、これからの人事部の大きな役割になるのではないかと思います。


クライアント企業の声

過去の記事