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フレックスタイムと時差出勤

2013.12.22
 

前回のブログでは、クロスボーダーM&Aに限らず、国内企業同士のM&Aにおける統合プロセスでも、同じ日本語で話しているのに話がかみ合わないという事例を紹介しました。同じ単語でも、会社によって意味するところが異なるためです。普段は意識していなくても、それぐらい会社特有の暗黙の共通認識というものが、言外にあるということです。
 
最近、M&A以外でも似たような状況を体験しました。独立開業してから中堅・中小企業のクライアントが増えており、小さいですが新たな発見をしたという感じです。それはフレックスタイム制に関する様々な認識の有り様です。この2か月の間、外資系企業2社、オーナー系の日本資本の中小企業1社で、立て続けに同じような状況に遭遇しました。
 
まずは、外資系A社での体験。このクライアントを紹介してくれた知人からは、フレックスタイム制を導入していると聞いていました。しかし、実際に会って話を聞いてみると、クライアント企業の担当の方は、フレックスタイム制は導入していないと言います。
 
「あ、そうですか。」「フレックスタイムでなければ給与計算も複雑にならないのでいいですね。」という感じのやりとりをしました。ところが、別の担当者と話すと、「いえ、うちはフレックスタイム制です。」といいます。「???」 どうやら「フレックスタイム制」の理解が人によって違っていそうだなと、ここで気が付きます。後日、就業規則を入手して確認したところ、そこには「フレックスタイム制を適用する」と明確に規定してあります。「あー、やっぱりフレックスタイム制なんだ。」と、一旦、納得。
 
ところが、さらに複数の人の話を聞くと、どうやら実態はフレックスタイム制ではなく、好きな時間に出勤して良い社風の会社であることが判明しました。それをある社員は、フレックスタイム制と呼び、別のある社員は、労働基準法上のフレックスタイム制ではないという理解があったためか、フレックスタイム制ではないという回答をしたようです。
 
しかし、就業規則にフレックスタイム制と定めてあるのはなぜか?という疑問が残ります。これは、複数の人の話を総合すると、外部の専門家に就業規則の作成を依頼する時に、恐らく当時の担当者が「うちはフレックスタイム制です。」ということを伝えて、それがそのまま規程化されたということではないかと思われます。また、就業規則は社員に周知することが必要ですが、社員の多くは就業規則の内容をあまり見たことがないという実態も垣間見えました。
 
現場へのヒアリングを含めて就業規則を作成しないと、こういう状況も起こりうるというとこです。反面教師として、こういう事態にならないよう、現場への確認を含めて丁寧な対応を心掛けないといけないなと思わされた出来事でした。
 
次は、外資系B社。こちらは、M&A関連の案件でしたが、就業規則を見るとフレックスタイム制ということが明記されています。クライアントの人事担当者も、「はい、うちはフレックスタイム制です。」と明確に言い切っています。
 
合弁相手の会社から、この外資系企業に転籍してくる予定の社員は、現在の会社でフレックスタイム制が適用されており、転籍となる外資系B社でも、フレックスタイム制が適用されそうだということで、歓迎の意向を示しています。
 
ところが、何度か協議を重ねていくうちに、人事担当者が、ポツリと妙なことを言いました。
 
人事担当A氏:「この就業規則のフレックスタイムは、実際の設定時間と少し違うな。」
私:「あ、そうですか。じゃあ、実際のフレキシブルタイムとコアタイムを教えてください。」
人事担当A氏:「毎日、8:30から17:30」で決まっています。
私:「?? 毎日始業と終業時間は、決まっているんですか?」
人事担当A氏:「はい。他の部署は9:00~18:00なんですが、この部署だけ「フレックスタイム制」で、30分始業を早めているんです。」
私:「・・・あ、そうでしたか。それは、フレックスタイム制ではなくて、時差出勤制度の適用ですね・・・」
 
このあと、フレックスタイム制度とは、労働基準法上、このように規定されていて、・・・というやり取りが続きます。この2社での経験から、どうやらフレックスタイム制というのは、特に中小企業では、労働基準法上のフレックスタイム制とは限らないな、という思いを強くしました。どちらの会社でも、就業規則にはフレックスタイム制ということが明記してあるのは、就業規則を作成した外部の専門家が、実態を確認せずに規程だけを機械的に作成したということが背景にありそうです。
 
オーナー系の中小企業C社。こちららは、就業規則にフレックスタイム制の規程はありません。ある日、管理部門のマネージャーさんが相談にきて、「業務都合で、ある特定の社員にフレックスタイム制を適用したいんだが、どうすればよいか?」と聞いてきます。
 
マネージャーA氏:「普段は、10:00~19:00勤務なんですけど、業務都合で9:00~18:00にしたいんです。それで、一時間早く来てもらうことに対して、手当とか払わないといけないでしょうか?」
私:「毎日、9:00~18:00で始業・終業時間は固定ですか?」
マネージャーA氏:「はい、そうです。早く出勤してもらわないと、業務に対応できなんです。」
私:「そうですか。フレックスタイム制は、出社と退社の時間を本人が自由に決定する制度ですので、お話し頂いた状況には、適さないですね。」
マネージャーA氏:「そうなんですか!じゃあ、どうすればいいでしょうか?」
私:「御社は、前もって固定残業代を支払っているので、毎日一時間の早出残業をしてもらうことで、追加の手当を支給しなくても対応可能だと思います。固定残業代を超過する場合は、超過分の手当をこれまで通り、支払ってください。」
マネージャーA氏:「分かりました!」
 
この件では、マネージャーA氏は、追加の手当を支払わなくて済み、喜んでおられました。一方、同席されていた人事・総務担当の方が、一言。「フレックスタイム制って、そういうことだったんですか。うちの会社では、出社時間を繰り上げたりすることをフレックスタイム制と呼んでいました。」
 
今回、立て続けにフレックスタイム制に関する会社独自の解釈・理解をしている状況に立ち会う機会がありましたが、確率論的に想像すると、相当数の中小企業で、似たような状況になっているのではないかと思われます。そのこと自体は、別に悪いことをしているわけではないので、現実に何か支障が生じるわけではありませんが、これからビジネスを拡大していく中小企業にとっては、適切な労務管理体制の構築と運用がなされている必要があると思います。

今回は、たまたまフレックスタイム制に関する似たような状況に立て続けに遭遇しましたが、他にも様々な独自の解釈や運用実態が出てくる可能性もあります。それらが、必ずしも合法、かつ、組織管理上、有効な人材マネジメント手法であるかは分かりません。やはり、外部の客観的なレビューを受けるということは、社労士・人事コンサルタントの仕事を宣伝するというわけではなく、本当に必要なことだと思います。

 


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