2013年12月29日
2013.12.29
組織の拡大とともに必要となる資格・等級制度
今月は、外資系企業および日本の会社の双方で、資格等級制度の設計を検討する機会がありました。いずれも社員数は150名未満の会社ですが、共通してみられる以下の状況がありました。
(1) 資格等級制度が存在せず、組織上の役職・呼称のみが存在している
(2) 組織上の同一階層でも、給与水準がばらばら
(3) 昇格・昇進要件が不明確
以下、順番にポイントを見ていきたいと思います。
(1) 組織上の役職・呼称のみが存在
社員数が20~30人ぐらいまでの比較的小規模の組織では、組織上の役職・呼称がそのまま社員の序列になっていることが多いと思います。一方、組織規模が大きくなり、社員数も増えてくると、組織上の役職・呼称以外に、人事制度上の資格・等級制度を導入し、昇給・賞与・昇格に活用することが一般的です。
資格・等級制度を導入すると、同じ役職でも、人事制度上の資格・等級が異なるということが起こってきます。同じ部長でも、A等級とB等級の部長がいたりします。また、となりの部長と同じB等級でも組織上の役職は課長であったりもします。役職と資格・等級が一対一の関係ではなくなります。
この役職と等級の対応関係の設計を工夫することで、適切なモチベーションの維持も可能になります。従来は役職者にならなければ、人事制度上は、給与の増額が望めなかった社員も、資格・等級が上がれば一定の昇給を得られることが頑張るインセンティブにもなります。
経営側からみれば、下位の等級から役職者を抜擢するような場合、従来の役職者向けの給与へいきなり昇給させずに、細かく設定した等級ごとの給与レンジに従って、きめ細かい昇給管理を行うことも可能です。こういう場合は一度に昇給させた方が良いという考え方ももちろんありますが、昇給によるモチベーションの刺激効果は一過性が強い傾向がみられますので、小刻みに上げていく仕組みを入れることも検討する価値があると思います。
(2) 組織上の同一階層でも給与水準がばらばら
これは、中途採用が多い外資系企業などで多くみられます。採用時は、前職での給与水準が一つの判断材料となりますが、自社に人事制度上の明確な給与基準がないと、前職の水準に大きく影響を受ける形で採用オファーを出すということが起こりやすくなります。
結果として、同一役職でも給与水準がばらばらになりがちです。あるいは、下位の役職者のほうが給与が高いということも起こります。組織階層間での給与水準の逆転です。この状況を放置しておくと、人事マネジメントに徐々に支障をきたしてきます。前職の給与水準が、必ずしも自社におけるパフォーマンスの発揮度を現しているとは限らないからです。
前職の給与水準を元に決定した現在の給与水準に対して、見合った貢献をしてくれない社員も出てきますし、給与以上の貢献をしてくれる社員も出てきます。これは、どの組織でも起こりうる状況ですが、中途入社が多い会社で前職の給与水準を引きずっている場合、その格差の度合いがとても大きいのが特徴です。
そこで課題になってくるのが、高すぎる給与の社員への対応です。部長を課長に降格することができる状況であれば、課長の給与水準に一定の時間をかけて調整することもできるでしょう。しかし、そのような誰が見ても明らかな降格というものは、良くも悪くも組織に緊張感が走ります。
また、資格等級体系がない場合、部長や課長など役職別に求められる貢献期待や役割・責任などが、明確になっていないことも少なくないというのが実情だろうと思われます。なぜ、部長から課長にならなければならないのか、客観的に合理的な説明をすることは困難になります。
また、資格等級体系がない場合、部長や課長など役職別に求められる貢献期待や役割・責任などが、明確になっていないことも少なくないというのが実情だろうと思われます。なぜ、部長から課長にならなければならないのか、客観的に合理的な説明をすることは困難になります。
一方、資格等級体系上、A級とB級の部長が存在する組織があったとします。資格等級制度の導入時は、その時点の給与水準に応じてA級と格付けされた部長が、実際の働きぶりや貢献度は、等級定義に照らし合わせるとB級相当であるとなれば、降級(下位の等級へ降りる)ということを客観的、合理的に実施できる可能性が出てきます。この場合は、資格等級が変わっても、周りからは見えないというのが先の場合とは異なるポイントです。
また、資格等級制度の導入時にB級に格付けされた部長は、頑張ってA級に上がるという目標ができます。A級とB級の給与レンジの設計を工夫することにより、今までの部長の給与レンジと全体として同じ範囲に設定するとしても、給与の上がり方を工夫することや、同じ役職内でも等級の上げ下げを行うことも可能になってきます。
一旦昇進したら安泰ということではなく、適度な緊張感を持って仕事をするという環境の整備にもつながると思います。
(3) 昇格・昇進要件が不明確
資格・等級体系が未整備であると、会社内のキャリアとして目指すものは、一般的には上位の役職に就くということになると思います。しかし、役職ごとに求められる組織上の役割・責任・貢献期待などは、曖昧な場合が多いと思われます。
(2)で触れた内容と重なりますが、これを明確化することで昇進・昇格(あるいは降職・降格)が実行しやすくなります。資格・等級ごとに求められる要件を定義した等級定義書を作成し、それを人事評価と連動させることで、資格・等級見合いの貢献レベルとはどういうものかについて、社員の一人一人に意識づけしていくことが可能になります。
この点は、人事評価のプロセスである目標設定と振り返りをしっかりと実践していく中で実現していくことになるので、評価の運用レベルが極めて重要になってきます。
ここまで資格・等級制度を起点に書いてきましたが、資格等級を運用するということは、給与や人事評価とも必然的に運用面での連動が発生してくるということになります。このようなこともあり、資格等級・報酬・評価制度を指して、人事制度の主要三制度とか、三本柱という言い方が良くされます。
出来れば、この3つは切り離すことなく、総合的に検討した上で人事制度の改訂を進められるほうが良いと思います。現実には時間やコストをはじめリソースの制約がありますから、理想通りには行かないことも少なくないと思いますが、この3つは、切っても切れない有機的なものであるということを認識することがとても大事なことだと思います。