リテンションボーナス

2014年02月04日

2014.2.3
 

優秀な人材にやめてほしくない場合や一定期間はどうしてもやめないでもらいたいような場合に、会社として社員にリテンションボーナスを支給することがあります。欧米企業では比較的良く見られる光景ですが、日本企業においては、普通の状況では、あまり耳にすることはないかもしれません。

しかし、リストラクチャリングやM&Aの状況では、日本企業でもリテンションボーナスの類について、支給を検討することがあります。例えば、最近もよく新聞などで目にする事業の再編に伴う工場閉鎖のケースがあります。

工場の閉鎖に伴い、他の工場への配置転換や希望退職などを実施することが多くみられますが、多品種製造をしている場合、全ての製造ラインが全く同じタイミングで製造を終了するということは、現実的には少ないかと思います。

そういった場合、最後の製品を製造するラインの担当者が、転職活動や自己都合退職でラインが止まると支障が生じますので、そういった事態に至らないようにリテンションボーナスを支給して、「最後まで休まず(退職せず)に、頑張ってください。」という意味合いで、リテンションボーナスを支給するケースが日本でもあります。

この時、実際に最後まで休まず勤務した時点で支払う場合と、事前に支払う場合が考えられますが、事前に支払う場合は、労働基準法上の制約に留意する必要があります。仮に、途中で退職したり、転職活動で出勤率が低かったりした場合は、一旦支給したボーナスを返還させる取り決めをすると、労基法の違約金の定めの禁止条項の抵触する可能性があるからです。

このことは、「入社してくれたらサインオン・ボーナスとして50万円支給する」というような事例でも、「1年以内に退職の場合は、サインオンボーナスを返還させる」というような条項を入れると、同様のリスクが考えられます。

M&Aの場合でも、リテンション・ボーナスを社員に支給することがあります。日本企業でもたまにありますね。この場合も、例えば「実際に1年間在籍時に給与一か月分を支給」というように規定するほうが無難です。先に払っておいて、後で一定期間の在籍要件を満たさなかったら返還せよというのは、同じ労基法上の抵触リスクが考えられます。

一方、取締役に対するリテンションボーナスはどうでしょうか。こちらは労働者ではないので、基本的に労働基準法の適用範囲外となりますから、労基法の違約金の定めの条項も適用されないということになりますね。但し、使用人兼務役員の場合は、労働者の特性も併せ持っているので、やはり注意が必要そうです。

リテンションボーナスを検討される際には、こういった点にも留意されることを忘れずに検討される必要があります。

しかし、リテンションボーナスというのは、お金でヒトを繋ぎとめるということですので、お金の切れ目が縁の切れ目という典型的なモデルにもなりかねません。つまり、リテンションボーナスをもらった直後に退職することを防ぐためには、定期的にリテンションボーナスを払い続けるということに繋がるということです。

お金の効き目は限定的で、すぐに効き目が覚めてしまうものですので、本来的には、社員の内発的な動機づけを強める要素(=お金以外のもの)に積極的に働きかける仕掛けをしていくほうがより本質的で重要であることは明白でしょう。

リテンションボーナスが悪いということではなく、ボーナスの効き目があるうちに、気持ちを繋ぎとめる状況を会社として作り出す努力が欠かせないということです。