時間外労働と組織の生産性

2013年07月29日

2013.7.29

 

時間外労働(残業)の削減方法について、工夫をしている会社は少なくないと思いますが、残業を減らした結果、社員の士気も下がって業績の改善もみられないという場合も少なくないかと思います。


「生産性の向上 ⇒ 残業減少 ⇒ コスト構造の改善 ⇒ 業績の向上」 というサイクルが循環することが望ましい状況と思いますが、「残業の削減」から手を付ける時は、当然のことながら、社員の士気への影響も考慮する必要がありますし、生産性の向上が伴わない段階での残業抑制であれば、売上目標が未達成だが利益目標は死守したい、という縮小均衡的なアプローチになりがちです。 


昨今は様々な業界で人員調整が進み、人員に余裕がないという感覚が強いかと思いますが、それでも大企業では、絶対的な水準からみれば、まだまだ人員に余裕があるところも少なくないのではないでしょうか?


先日、日本経済新聞に「残業の9タイプ」という記事がありましたが、内容を見ると、「付き合い型」、「ダラダラ型」、「独りよがり型」という感じで、主に大企業でみられるタイプが多いように感じました。

「付き合い型」 上司・同僚が残っていると帰りづらいので会社に残る
「ダラダラ型」 就業中の密度が薄く、ダラダラと働いている
「独りよがり型」 的外れの仕事をして後で修正を迫られ残業に至る

「付き合い型」などは、正に日本人的な感じを受けますが、上司のリードの仕方次第で、相当程度解消される余地があるように思います。

「ダラダラ型」も、やはり多くの日本の会社組織で見られるタイプではないかと思いますが、いわゆる外資系企業の組織では、あまり見られないタイプかと思います。ダラダラ仕事をしていると、会社組織の中で生き残っていけないという組織風土が前提にありますし、そもそも外資系企業の企画機能や営業などに特化した組織では、残業代の支給対象者がいないということも少なくないと思います。


「独りよがり型」も、後で修正のための残業をさせてくれるような優しい組織は、減少していくような気がします。

一方、国内資本の中小企業に目を転じると、最近は、あらかじめ一定の時間外労働手当を前払いで支給する場合が増えているようです。当事務所を開業以来にご縁のあった中小企業に限って言えば、3分の2以上は、前払いの時間外労働手当を支給していると思います。


もちろん、前払い分に含まれる時間を超えて残業した場合は、超過分を合わせて支給する必要がありますが、生産性の観点からは、一つのやり方だとは思います。実際、前払い手当を導入して以来、長時間労働が減ったという声も聴きます。やはり、一定の割合で、「付き合い型」や「ダラダラ型」が中小企業にも含まれているのでしょう。

先の残業の9分類には、「生活型」というのもあります。生活費やローン返済に残業代を充てているので帰れない、というタイプということですが、これは、ダラダラ型と表裏一体のような気がしますね。


これらの残業タイプは、一言で言ってしまえば、社員の意識と組織管理上の問題で、残業の必要性を上司がしっかり吟味したうえで承認するプロセスがあれば、防げるタイプでしょう。中には、残業代を賞与の原資から差し引くという報酬制度を実施している企業もあるくらいなので、そこまで踏み込むかどうかは別にして、このタイプの残業が蔓延しているようであれば、まだまだ打つ手はあるものと思います。


一方で気を付けなければいけないのは、優秀社員の残業です。どの組織でも優秀者に仕事が集まるのは、古今東西を問わず共通の現象ですが、優秀社員は、仕事ができるだけに、本人の体力が続く限り、残業を重ねる傾向が強いです。


特に昨今は、中小企業に比べれば、まだ人員の余力がある大企業にしても、人員調整や管理職層の疲弊感もあって、組織の人材育成力は低下傾向にありますので、残業手当の支給対象である若手の優秀社員のノウハウを標準化して組織知化するプロセスは、中々うまく回転しない状況かと思います。

しかし、一部の優秀者に属人化したナレッジやノウハウを組織全体で共有することは、組織の生産性向上の基本になるので、まだ手を付けていないければ、是非検討課題としての優先順位を上げてほしいところです。

これを実践することが、「生産性の向上 ⇒ 残業の減少」のプロセスの歯車を回転させることに繋がりますし、多くの社員の士気も向上し、組織全体として仕事をすることにもつながるかと思います。

「優秀者のノウハウは、優秀者にしか使いこなせない。」というのは、多分思い込みで、知恵を出せばできるはずだと私は思っています。ただ、かくいう私も、「人事コンサルティングのノウハウは、標準化が難しい」と長い間、感じていました。

しかし、開業して全てのコンサルティングを自分自身でやりきるのは、肉体的・時間的な限界がありますので、やむを得ずという部分もありますが、事務所サービスの標準化を真剣に考え、着手しつつあり、ある程度は行けそうな手応えがあります。多分、自分で殻を作ってしまっていたのが、環境に背中を押されてやってみたら、意外と何とかなるかも、ということで、まずは何はともあれ、決めつけないで行動してみることが大事だと、改めて感じた次第です。


残業問題は、コスト面と社員のマインド面の双方に絡む問題ですが、打ち手の入り口を間違えないことが肝要と思います。参院選挙で大勝した安倍政権が、雇用改革の方向性を打ち出しましたが、残業に関する議論も想定されているので、またこのブログでもご案内したいと思います。