M&A時の健保対応

2013年09月07日

2013.9.7
 

ようやく朝晩は秋の気配を感じるようになってきましたが、日中はまだまだ暑いですね。
暑さと忙しさにかまけて、最近はブログのほうが疎かになりがちでしたが、気を取り直して続けていきたいと思います。

今回は久しぶりに「M&A人事」に関するトピックの中から、事業譲渡や会社分割時の健康保険組合の取り扱いについて書きたいと思います。

M&Aと言っても合併の場合は、複数の健保組合をどう統合するか、あるいは、どこの健保組合に編入するか、という観点で財政検証や保険料、給付等の内容を比較・検討していきますが、事業譲渡や会社分割の場合は、今まで加入していた健保組合に継続加入し続けるか、別の健保組合へ編入するかの選択になります。

例えば、5,000人の会社の一事業部門を売却して、買い手が新会社としてビジネスを開始する場合で考えてみましょう。5,000人の会社の社員は、A健康保険組合に加入していますが、新会社として設立された元事業分門の社員は、どこの健康保険組合に加入することになるでしょうか?

ポイントは、新会社の社員数と社員構成です。単独で健保を設立できる人数要件に達していれば、新会社が単独で健保を設立することも不可能ではありません。しかし、高齢化と医療の先進化に伴い悪化する一途の健保財政を考えると、小規模で健保組合を設立することは、経済合理的な判断ではないと考えるのが、一般的だろうと思います。

そうすると、今まで加入していた健保組合に残るか、あるいは、別の健保組合への編入を検討するか、ということになります。M&Aの場合、10年ぐらい前までは、資本の切れ目が健保組合の切れ目ということで、元の会社との資本関係が切れた(低くなった)段階で、健保組合も脱退して、他を探さざるを得なかったという状況でした。

ところが、やはり10年程前ですが、当該会社の社員の半数以上が、ある健保組合に加入していた実績がある場合、社員の過半数の合意なしには、もともと加入していた健保組合から脱退させないよう対処することという厚労省の通達がでました。つまり、今まではM&Aに伴う資本関係の低下・解消によって、社員は健保組合から脱退して、新会社が加入する別の健保組合あるいは協会健保へ編入するしか道がなかったのですが、もともと加入していた健保組合に継続加入できる道が開けたということになります。組織再編の増加に伴って強化された労働者の保護施策の一つと言えます。

当時はこの通達を盾に、売り手側の会社に、売却事業部の社員をM&Aの売り手が加入する健保組合に継続加入させてもらえるよう、よく交渉をしました。しかし、従前は、資本関係や人的交流の水準によって健保加入継続の是非が判断されていた時代があったため、通達の書面を見せても、中々すぐには首を縦に振ってもらえず、期間限定での継続加入となることも少なくありませんでした。ただそれでも当時としては、画期的なことではなかったかと思います。

最近はこの通達も大分市場に浸透してきたようです。今年に入って支援した複数の人事デューデリジェンス案件で、当事者の人事部が、このことを認識しており、話はスムーズに進みました。10年以上前に、ベテランの人事役員などから怪訝な目つきで見られたことを思い出すと、隔世の感があります。

ただ一方では、この通達のことを知った上での経営判断として、新会社に移る元社員を自社の健保組合に継続加入させられないと判断されるケースも少なくない状況だと思います。特に外資系の会社において、この傾向は顕著かと思います。健保脱退に関する元社員から合意取り付けも、分割した新会社の責任で行うものと位置づけ、粛々と進めるケースも、少なくないと思います。

経営上の判断による部分も少なくなく、また、複数の要素が絡み合うため、当事者にとっては、どちらの進め方が良いか悪いかということも一概には言えない部分もありますが、今回紹介した内容を知った上で、適切な判断と対応が取れるように準備をすることができれば良いかと思います。「あの時知っていれば、違う手が打てたのに」、ということがないように。「M&A人事」に取り組まれる皆さんを応援しています!