2013年11月28日
2013.11.28
裸一貫で起業してから事業を軌道に乗せるまでの過程は人並みの苦労では語れません。そんな苦労の道のりがあったからこそ、特に創業経営者は利益の確保が事業の継続には最も大事であることが、頭での理解としてだけではなく、体中の細胞の感覚として染みついているのだと思います。
収益源が増えて事業が徐々に安定してくると、社員を増やし組織も複雑化していきますが、数十人規模の会社だと、ちょっとした市場環境の変化でも大きく業績が変動しかねません。例えば、得意先が廃業したとか、想定外の不良品回収で利益が下振れしたなど、利益に極めて大きな影響を及ぼす変化が、いつどこで起きても不思議ではありません。
このような背景もあり、社員の人事処遇に関しては、利益の達成水準を一番の目安にしているケースが少なくないと思います。営業利益やEBITDAの計画に対する達成率に応じた賞与原資テーブルを設計したり、利益額自体の〇%を社員の賞与原資にするというケースが代表的なパターンです。
達成度に応じた賞与原資の額に上限を設けなければ、業績達成へのとても強いインセンティブ性を持たせることができるので、勢いのあるベンチャー企業などには適している面があります。
一方、利益指標のみを賞与原資の決定要素とすると、借入金の返済額の変動や、将来を見据えた設備投資や人材の採用による人件費の上昇などが、短期的には直接利益を圧迫する要因になりますので、社員の視点からみれば、賞与原資を減らすような経営活動への理解が充分に得られにくいという面もあります。
経営者・会社を信じて去年と同じように一所懸命に働き、売上も昨年比でプラスを達成しているのに、設備投資が嵩んだため賞与が減るとなると、普通の人であれば、モチベーションを維持するのは結構大変です。あるいは、将来の成長へ向けた仕込みの段階として管理・支援機能の人材を多めに採用したが、当期中に利益の増加は見込めず、賞与原資も前年並みには確保できないとなると、やはり士気は上がりにくいでしょう。
どんな事業でも創業期を経過して次の成長ステージを見据え始めた段階で、このような状況に直面することがあると思います。経営は、リスクを適切に見極めた上で先行投資をどれだけ果敢に実行できるかにかかっていると思いますが、人事処遇の面でも、利益一辺倒の処遇体系から脱皮していく必要性があると思います。
例えば、従来は利益指標だけに基づいて決めていた原資決定ルールを利益と売上の伸び率を加味した方式に改訂することなどが考えられます。売上を指標にすることは、コスト面に対して直接影響を及ぼせる機会が少ない一般社員層に対して、特にインセンティブ性を強く発揮します。自分の頑張りが直接反映される可能性が見えてくるからです。
しかし、経営からみれば、売上が達成できても利益が伴っていなければ、賞与は増やせない・増やしたくないと思うかもしれません。そういう意味では、利益と売上の反映比率を絶妙に配分して原資決定の仕組みを設計し、ある程度は経営としてリスクをとって、創業期よりは毎期安定した賞与を支給する体制を整備しつつ、並行して、新規顧客の開拓に精を出したり、利益率改善の知恵出しと仕組み化を以前にもまして早いサイクルで行う覚悟を決めるしかありません。
経営者は孤独な戦いを強いられる宿命を背負っていますが、組織・人事面から少しでも側面支援ができればと思います。