人事DDと労務DD

2014年01月04日

2014.1.4
 

今年は1月6日(月)が仕事始めの会社も多いと思いますが、年末年始の休暇が長かった分、そろそろ仕事モードに頭と体を切り替える時期になってきましたね。当事務所も1/5(日)までが休暇ですので、この間は、多少仕事関係の本を読んだり、ブログを書いたりしながら、今年の事務所運営を考える程度で、比較的ゆったりと過ごしています。ありがたいことです。お蔭で今年もクライアント企業の支援に集中するための英気が養われました。

そろそろ本格的に仕事モードに戻そうかと思いながら、今朝メールをみると、新年の挨拶メールに混ざって、一通のメールが入っていました。昨年末に支援が決まっていた人事デューデリジェンス(人事DD)のデータルーム開設通知です。

2001年に人事コンサルティングの世界に飛び込んだ頃は、ファイナンシャルアドバイザー(FA)や対象企業のデータルームを実際に訪問して、関連の資料を閲覧するということがほとんどでしたが、2000年代の半ば以降、わざわざ現地まで足を運ばずとも、インターネットが繋がる環境があれば、デューデリジェンスの書類の閲覧と分析作業はできるので、随分と楽な時代になりました。

とはいえ、極めて限られた時間で仮説構築、データ収集、分析、インタビュー、報告書作成という一連のプロセスを完了することは、体力と気力が充実していなければ、持ちこたえられないタフな仕事であることは、今も変わりません。

実際の人事デューデリジェンスでは、法務や税務・会計領域のアドバイザーと適宜情報を交換しながら分析作業を進めます。コンサルティング会社で働いていた頃は、人事DDは、人材と人材マネジメントの仕組みの分析、および、人件費、退職給付債務の分析・評価に焦点を合わせ、労働法関連の精査は、法務アドバイザーが主導的に行うという役割分担をすることも少なくありませんでした。

ところが、個人事務所として独立した後は、労働法や社会保険に関する法令順守状況についても、しっかりと人事DDの中で精査することが多くなりました。人事コンサルタントであり、社労士であるという特性が活かせる領域なので、今後も積極的に取り組んでいきたい領域です。

人事DDの提案書の作成を依頼された場合、人事DDにおける実務的な対応範囲を記載しますが、大きく分けると以下の分類ができます。

(1) 人件費・退職給付債務の分析
(2) 経営戦略の実践力を見極めるための分析
(3) 人事労務領域の法令順守状況に関する精査

上記のうち、(1)と(2)を人事DD、(3)を労務DDという呼び方で区別する場合があり、個人事務所となってからは、(1)~(3)の全てを含めて人事DDと呼ぶことが多くなりました。

労務DDの代表的な精査項目は、例えば、以下のような項目となります。

(a) 時間外労働の実態と残業手当の支給実態
(b) 管理監督者の労働基準法上の要件充足度の確認
(c) 偽装請負等の違法な労働実態の有無の確認

その他、就業規則の記載内容の適切性の確認や、必要な労使協定が適切なプロセスで締結・届出されているかといった詳細な実務運用面を検証することも中にはあります。しかし、そこまで見るケースは、少数派ではないかと思います。

むしろ、買収が完了した後の段階で、新たにオーナーとなった会社に対して実施する労務監査の中で、こういった実務レベルの法令順守レベルの検証をしっかり行う場合が多いと思います。

買収が成立する前に買い手候補として実施する人事DDの段階では、より戦略的な内容、および、買収価格に大きな影響を与える項目に焦点を絞って精査する傾向が強まりますので、労務面の精査が手薄になることも少なくないのです。

また、そういったレベルの検証をDD段階で行うためには、実務レベルの担当者に聞かないと分からないことも少なくないのですが、担当者レベルになると買収のための精査であることを知らされていないことが多いため、実際には、確認が困難であるという事情もあります。

これらの事情が相まって、デューデリジェンスの段階で確認できる労務面のリスクは、上に挙げた(a)~(c)のようなコスト的にもインパクトの大きい項目にある程度絞らざるを得ないことが多いです。

こういった事情もあるので、労務DDで問題が指摘されていなかったというだけで、全てのコンプライアンス上の問題がないということにはならないことがお分かり頂けると思います。

したがって、むしろ買収成立後に、特に労務管理の実務面で適切なプロセスが実行されているかについて、買い手企業、あるいは、プライベートエクイティなどは、改めて確認をすることが必要ということです。その場合は、すでに支配下の会社を精査することになりますから、労務DDではなくて、労務監査という位置づけになりますね。

今年は、当事務所でも、人事DDと合わせて、労務DD、および、労務監査のサービスを充実させていきたいと思っています。