2014年01月12日
2014.1.12
ITツールが急速に発達した1990年代後半以降は、ちょっと声を掛ければ済むような用事でもメールで連絡を取り合うようなことが増えており、ITの発達と比例して、生身の人間としての組織内の交流頻度は、少なくなってきているように感じます。プラスアルファの力を引き出すという観点から、組織の一体感を高める様々な取組を工夫している会社は少なくないと思いますが、組織内の人の繋がりを強くする必要性は、以前よりも高まってきていると言えます。
組織の一体感を高めるために有効なアプローチは複数あると思いますが、絶対に欠かせない大前提があります。共通の組織目標を明確にすることです。なんのために働いているのか曖昧なまま、惰性で働いている状況では、そもそも個人としてのモチベーションが上がりませんし、組織の一体感を高める以前の段階で乗り越えるべき課題があるといえます。
共通の組織目標が明確で、かつ、その目標が社会的な観点から意義のある、使命感を掻き立てるようなものであれば、組織が活性化する必要条件は整っていると考えられます。
この状態をじつげんするための方法は色々ありますが、その詳細は別の機会に譲り、今回は先に進みます。この条件がクリアできたら、次に組織の一体化を阻害する要因が生じていないか洗い出します。
意外と盲点になるのが、人事制度です。個人の評価や業績結果を重視した評価制度が、組織の一体化の阻害要因になるリスクがあります。また、組織上のポジションについて、その役割や責任をまとめた職務記述書がありますが、そこに記載されていない職務は、「私の仕事ではありません。」という捉え方をする人が存在するという組織も少なくありません。これは、等級制度の弊害です。
いずれも日本人の強みである「協力する力」や「助け合う力」を弱める作用を持っています。心ある企業では、こういったリスクを充分承知した上で、日本的組織の良さを損なわないように留意しつつ、最新の欧米の人材マネジメントシステムを導入しています。和魂洋才アプローチで、日本人の得意とするところですね。
一方、欧米式の人材マネジメントをそのまま取り入れて、日本的な良さを失ってしまっている組織も少なくありません。かなり古い例ですが、「虚妄の成果主義」という本で、富士通の成果主義の失敗を描いた元富士通社員の人事コンサルタントの著書が有名です。
組織の一体感を阻害する要因を取り除く、あるいは、新たに取り込まない体制が整ったら、積極的に一体感を高める施策を実行する段階です。これには、2つのアプローチが考えられます。
ひとつは、純粋に業務の延長で行う活動ですが、ポイントは、非日常的な環境下での絶対時間の共有です。例えば、宿泊型の研修があります。オフィスを離れて一泊二日でも充分に効果が上がります。但し、偉い人の講義を聞いて、夜は飲み会というだけでは効果が半減します。
会社や所属部門の経営課題をグループに分かれて議論を深め、翌日に発表会を行い、優秀な施策は実際に業務で実行してみるという実践的、かつ、参加型の研修の方が、効果が高まります。
これをうまくやると、参加者間の一体感がぐっと高まるのが実感できると思います。前にも書いたかもしれませんが、緊張感のある局面を一致協力して乗り越える共通体験をすることで、団結力や信頼感が高まります。
このタイプの最高峰のものが実践での修羅場体験ですが、宿泊参加型研修でも、プログラムを上手に構成し、かつ、熟練したファシリテーターをつけることで、それに近い効果を期待できます。
もうひとつは、福利厚生の見直しです。中でも、会社の正式行事としてのイベントが、一体感を高めるのに寄与する効果が高いといえます。先日、外資系企業でアジア地域の人事統括者と仕事をする機会がありましたが、彼女の意見では、日本企業の強さの源泉は、社員の一体感であって、それを維持しているのは、日本企業に特徴的な社員旅行などの業務外でのイベントではないかということでした。
外資系企業が中心に参加する福利厚生調査の中で、そういった項目は実施している企業割合が少ないので、調査項目に入っていないことを説明すると、やや驚いたような表情をしていました。確かに、一般的に外資系企業では、こういった取り組みに熱心とは言い難い状況があります。
それよりも、白羽の矢を立てた特定の人材に集中的な教育投資をしたり、眼に見える成果を挙げた個人を評価しがちで、縁の下の力持ちや側面支援した人たちには、あまり配慮が行き渡らないケースが少なくないように思います。
産労総合研究所が2010年に実施した企業の社内行事に関する調査があります。それによると、社員旅行やスポーツイベントを実施している企業は、1990年代半ばには9割近くあったものが、2004年には約4割まで低下し、最近は再び上昇傾向にあり、5割を超えているということです。中小企業ほど、実施率が高いという傾向もあります。
会社行事への参画が一体感を高めるのも、やはり非日常の絶対時間の共有が鍵と考えられます。普段の仕事では見えないお互いの人間味に触れる機会が多くあり、結果として、好意をもったり仲間意識を強める効果があるのでしょう。家族も参加できるイベントであれば、家族ぐるみの付き合いに発展することも有るでしょう。
こういった会社行事や、先に触れた参加型研修で非日常の空間で絶対時間を共有する場を定期的に持つことが、強い組織を作るための一つの鍵になってくると思います。
かつて成果主義が囃された時代に欧米方式を取り入れて日本的経営の良さを減殺してしまった事例もありましたが、やはり日本人の得意技である和魂洋才アプローチで、それぞれのやり方の良いところを上手くアレンジして取り入れることで、日本型人材マネジメントの進化形を創造していくことが日本企業が発展するための近道ではないかと思います。