2014年01月20日
2014.1.20
外資系企業の福利厚生制度は、日本企業と類似している部分と異なる部分があります。似ている部分としては、社宅があります。日本の大企業の場合は、法定外福利厚生費に占める割合が最も高いのは住宅関連施策です。各種統計数値を見ると、社宅・寮への家賃補助が半分以上を占めています。
外資系企業でも、元々日本企業であったものが買収されて外資系企業になったような場合、社宅・寮関連の福利厚生費用が高いケースが結構あります。但し、社宅家賃補助の見直しを検討している外資系企業は少なくありません。
一方、日本企業を買収したという経緯がなく、純粋なオーガニックグロースで成長してきた日本国内の外資系企業では、社宅・寮関連の費用は、相対的に日本企業よりも低めに抑えられていることも多いです。全国転勤を前提とする場合でも、社宅・寮の家賃補助はしないか低めに抑える一方、高い給与水準で処遇する傾向が強いように思います。
異なる部分もあります。まず、外資系企業の海外本社が理解に苦しむものに、出張時の日当があります。何のために支給されているのかが必ずしも明確でないケースが少なくありません。出張時の食費代相当という説明をする場合もありますが、それで説明できない場合は、長距離移動に伴う「お疲れ様料」ということかもしれません。
日本の大手企業でも日当の削減を検討している会社は少なくありません。外資系企業が新たに日当を導入しようとすることは、通常の状況下では、考えにくいことです。
ただ日本企業も日当を増やしたいとか、今後も継続していきたいという積極的な意向を持っている会社は多数派ではないと思うので、方向性としては、日本企業と外資系企業の向いている方向は、同じとも言えます。
明確な違いがあるのは、社員の保険に関する方針です。外資系企業は、リスクに備える観点から、社員に対して様々な保険をかける傾向が極めて強いと言えます。生命保険、傷害保険、所得補償保険、旅行傷害保険、労災上乗せ保険、医療保険など、潜在的に存在するリスクに対して、会社が保険料を払って社員に保険をかけることが一般的です。
一方、日本の会社はこの領域にはあまりコストをかけない傾向が顕著です。会社が保険をかけずに、希望する社員が自ら保険料を払って加入できる各種保険を金融機関と提携したり、自社の社内保険代理店を通じて用意しています。
こういった保険に対する方針の違いは、各国の社会保障制度の充実度の違いにも起因していると思われます。米国では、日本のような国民皆保険制度がないため、会社が民間保険を買って社員に付保し、そのパッケージ内容の良し悪しが採用力にもかなり影響するということもあります。
日本で働く日本人社員は、諸外国と比べて健康保険や労災保険で守られている部分が多いので、就職活動や転職活動の際に、生命保険の有無や付保の程度を気にする人は、極めて稀ではないかと思います。
採用時の福利厚生に関する魅力の訴求という観点では、日本企業は、健康保険組合へ加入していることで様々な手厚い保障を受けられることや、共済会への加入を通じて、慶弔関連の給付や生命保険、各種レクリエーション活動などの機会が提供されることを前面に打ち出すことが多いでしょう。
こういった事情を外資系企業のアジア担当者やグローバル本社の担当者と話す機会がありますが、一定の理解を示すものの、最終的には従業員保険をフルパッケージでつけるということが少なくありません。
潜在的に存在するリスクには保険ですべからく対応するというのが、特に欧米系企業のカルチャーなんですね。もっとも、保険をかけるかどうかを判断するために他社の状況をベンチマークすることも行います。外資系の同業他社が従業員保険をかけている領域では、自社の採用競争力とリテンション力を維持するために、保険をかけるという結論になることが多いのが実態です。
外資系企業の福利厚生における従業員保険の現在の状況が、必ずしも外資系企業で働く日本人社員のニーズにマッチしていなかったとしても、一旦確立された外資系企業の従業員保険に関する市場プラクティスが劇的に変わることは、今後もないでしょう。
もし私が外資系企業の日本法人社長になったら、そのあたりのコストを少し減らして、もっと社員が喜びそうな施策にコストを回したいなと思います。日本の中小企業でまだ生き残っている人の繋がりを大事にし育むような施策に、です。誕生日や記念日、勤続〇年などに、ささやかな記念品とメッセージなどを直筆で手渡してあげるだけでも、組織の雰囲気が変わるきっかけになる会社も少なくないのではないかと思います。