2013年06月06日
2013年6月6日
コンサルティングファームに勤めていた当時から、M&Aに伴う健康保険組合の統合(合併)支援のニーズは少なくなかったのですが、ここ数年は、支援ニーズの内容も変わってきました。特に高齢者医療制度がスタートした2000年代後半以降は、将来の健保組合の財政検証をしっかり行うケースが増えてきており、ここ2,3年は、その傾向がとても顕著です。時々新聞にも載りますが、約1,500ある健保組合の8割程度が赤字決算という状況を踏まえ、保険料率の改訂や、検討段階においては、健保の解散まで視野に入れた厳しい選択を迫られているというのが現実だと思います。このまま保険料率を上げていかざるを得ないのであれば、協会健保に移行したほうが保険料負担が軽くなる、という極めてシンプルな経営判断が働くケースも徐々に増えてくるでしょう。
健保組合の支出の中で大きな項目は、保険給付費と高齢者関係の納付金・拠出金ですが、共に過去の実績は確実に支出が伸びてきていますし、今後も伸びていくことは避けられない状況です。保険給付費(一人当たり)は、実績ベースで毎年2~3%の伸び、高齢者納付金・拠出金は、厚生労働省の告示額(納付金・拠出金の額を決める単価)が、やはり毎年少なくとも2~3%は伸びていくと想定されます。
日本を代表する上場企業の健保組合が、毎年保険料率を増額改定しているニュースが新聞に掲載されるのは、こういう背景があります。支出が増える一方で、健保組合の被保険者である役員や社員の報酬、給与は、ご存じのとおり、増える気配はあまりなく、アベノミクスの掛け声で昇給を実施した企業は、一握りでしたね。大手製造業は、昨年来、大規模な早期退職優遇制度を断続的に実施してきましたので、高給取りが早期退職で大量に退職していきます。健保組合の財政にとっては、保険料収入の減少が、退職者分の保険給付費等の減少を上回る可能性が高いのではないでしょうか?
企業の合併・買収(M&A)の状況においては、当社では人事領域のデューデリジェンス(人事DD)の実施を多く支援していますが、将来の人件費シミュレーションを行う際に、人員数や役員報酬、賃金の伸びを見込むことに加えて、これからは、健保組合の保険料率の伸びも合わせて分析に加えていく必要があると思います。
全く資本関係のない会社同士のM&Aでも、グループ内再編でも、複数の健保組合を統合(合併)する際には、人事制度を統合する際と同じような留意が求められます。 人事制度では、異なる資格・等級体系に基づいて序列化された社員が、資格・等級に応じた賃金・賞与を支給されるのが一般的ですが、統合新社の人事制度で、どの資格・等級に格付けされるかによって、賃金・賞与の額が、M&A前より上がったり下がったりします。ですので、その影響を少なくするために、特に給与が下がる場合には調整給を支給することで、労働組合の合意形成を図るという流れがあります。
一方、健保組合の統合では、保険料率は、全員一律に同じ率が適用されますので、個人間での格差は生じませんが、合併するどちらかの会社の社員は、多くの場合、全員保険料率が上がるか、もしくは下がる、ということになります。保険料率が上がる側の社員にとって、たとえば付加給付の内容が手厚くなるとか、保健事業が良くなるなどの改善点があればいいのですが、そのような改善点がない場合、料率変更のコミュニケーションにおいては、工夫が必要ですね。労使の保険料負担比率を変えて、社員の負担を和らげてあげるのも一つのシナリオですが、経営側の負担を高めすぎると、「協会健保に行ったほうがましだ!」というシナリオが勢いを増してくるので、いずれにしても、易しい道のりではないと覚悟したほうがよさそうです。
また、統合健保組合の付加給付や保険事業の内容を検討するに際しては、会社が直接支給している福利厚生や保険会社を経由して支給される福利厚生も含めて、総合的な観点から設計することが必要です。特に、傷病や出産・育児等に関して、共済会も含めて、似たような給付を健保以外のところから行っている場合があるので、健保組合だけ切り離して統合議論を進めると、「もっといいやり方があったのに、すでに手遅れ」とか、「重複している福利厚生を整理する絶好の機会を逸してしまった。。。」ということにもなりかねませんので。
複数の同業種企業が加入する総合型の健保組合においては、財政状況の開示状況はまちまちだと思いますが、足元の保険料率が低いほうに編入すると決定する前に、可能な範囲で、将来の財政見通しに関する材料を集め分析したうえで、舵取りを決めたほうが安全だと思います。先週、厚生年金基金の解散に関する法案が通りましたが、健保組合の5年後は、同じようなことになるのか、全く別のシナリオとなるのか、予断を許さない状況と思います。法定準備金の積み立て基準が今年から緩和されたようですので、しばらくは大丈夫と思いますが、今後も動向を追って行きますので、またこのブログでもご報告したいと思います。