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中小企業の報酬戦略②

2013.11.20
 
11月2日のブログ「中小企業の報酬戦略」の続編です。前回は、2013年春の賃上げの実態をご紹介しましたので、今回は2013年の夏季一時金支給状況をみてみました。連合の統計値では全産業の平均で2.12ヵ月分(昨年比+0.18ヵ月)、東京都産業労働局の集計では、同じく2.20ヵ月という状況でした。支給のばらつきという観点では、業界により1.1~2.7ヵ月分の間に分布しています。人数規模別に集計している東京都の集計結果をみると、社員299人以下の規模では、1.92ヵ月分(昨年比▲0.03ヵ月)という結果でした。
 
安倍首相が主要上場企業に対して、夏季一時金(賞与)の増額ではなく、賃上げ(昇給)を要請したことは記憶に新しいところかと思いますが、今年の賃上げ、夏季賞与の結果を見ると、限られた統計数値ではありますが、「大手企業は賞与を若干増やしたが賃上げは昨年並み」、「中堅・中小規模企業は、賃上げ・賞与ともに、ほぼ昨年並みか微減」というのが、実態に近いのではないかと思います。
 
消費者物価の上昇の気配が出始めていますが、額面上の名目賃金はもとより、今後のインフレ率を織り込んだ実質賃金の上昇につながらないと、実質的な賃上げとは言えないと思いますので、現状は厳しいという見方をしています。そろそろ冬の賞与の話題が新聞等でも取り上げられていますが、動向に注目しています。
 
ところで、賃上げと賞与のどちらが社員に喜ばれ、個人消費を刺激するかという点では、一度上がれば下がりにくい賃上げのほうが、社員の中長期的なモチベーションや個人消費への効果は大きいかと思いますが、大企業ですら二の足を踏む賃上げに対して、ちょっとした経営環境の変化でより大きな業績への影響がある中堅・中小企業では、賃上げに踏み切ることは、経営者にとっては、とても大胆な決断ということになると思います。
 
最優先に考えるべきことは、会社が永続することであって、大胆な賃上げでコスト構造を悪化させて自らの首を絞めることは、経営者としてはしたくないものです。しかし、社員の目線からすれば、昇給が少なかったり、全くないという状況が続くと、将来の生活に対する展望が描きにくいですし、優秀な人材であれば、どんなに愛社精神が強い人でも、他社への転職を考えるきっかけには成り得るでしょう。
 
一昔前は、賃上げ・昇給というと、毎年勤続を重ねることによって、自動的に一定額の賃上げ額が保障されたものですが、少なくとも多くの民間企業では、もはや文字通り遠い昔の話で、賃上げ・昇給も、会社・業績等への貢献に応じて金額が決定され、悪くすると、賃金が下がることも有りうる時代です。
 
先進的な大企業や外資系企業で多くみられるのが、現在の賃金水準と人事評価結果のマトリクスで賃上げ・昇給額を決める方式です。会社が求める水準以上の成果・業績を残した社員にのみ賃上げが実施される仕組みで、すでに高い賃金水準の社員は、最高の人事評価を取り続けても、上位の等級に昇格しなければ、賃金が上がらない仕組みです。
 
また、期待水準の働きができなかったり、すでに現在の賃金水準が等級見合いの水準に対して高すぎる場合などは、賃金を下げることも仕組みとして導入されています。この賃上げ・昇給のマトリクスをうまく設計することで、それほどの原資を使わずに、貢献度の高い人材に絞って賃上げを実施することも可能になってきます。
 
一方の賞与ですが、大企業では、月給の何か月分という捉え方をするのが一般的で、各種統計もそういう捉え方をするものが多いですが、数十人規模の中小企業では、月給の倍率という考え方を採用していない会社も少なくないように思います。そもそも社長の判断で社員個人の賞与額を決めているという会社も少なくないと思いますし、仕組みがあっても、社員に公開できるほど完成度の高いものではないケースもあるので、社員からみると、何をどこまで達成すれば、賞与がどれ位増えるかというのはブラックボックスになりがちです。
 
処遇の決定プロセスがブラックボックス化すると、見えやすい部分や好き嫌いで評価・処遇されているという不健全な感情が生まれる余地が出てくるので、組織規模が30人ぐらいを超えてきたら、一度、評価と賞与決定の仕組みがブラックボックス化していないか検討した上で、社長以外の幹部を中心に組織として運用できる客観的な仕組みの構築を検討するのがいいと思います。
 
お金の処遇に関する施策以外にも、人材のモチベーションに与える要素はたくさんありますが、目につきやすい部分は、やはりお金の部分であることも事実です。対処策の優先順位は、よく検討する必要はありますが、人材の流出リスクが高いと感じたり、何となく社員の不満がたまっていそうという場合は、評価と昇給・賞与の決定の仕組みも原因かもしれませんので、一度点検されてみてはいかがでしょうか?


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