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賃金不払い残業の実態と対策

2013.11.8

 

去る9月に厚生労働省は、いわゆる「ブラック企業」対策として立ち入り調査を実施しましたが、当初設定した4,000社を上回り、4千数百社に対して立ち入り検査を行った模様です。すでに調査は終了していますが、悪質な企業については、年明けにも企業名を公表する方針であると言われています。

今回の調査で重点的に検査されたのは賃金不払い残業の有無だったようですが、経営者が確信犯的に時間外労働手当を支払っていないような場合は論外ですが、経営者に自覚がないまま、労働基準法上の時間外労働手当(いわゆる残業代)が未払いになっているという状況も少なくないと思います。今日は、「経営者としては残業代を払っていると認識しているが、実際には未払いで違法状態」というケースを紹介します。皆さんの会社でも一度点検してみてください。


1. 自己申告規制型

時間外労働を本人が自己申告する場合において、実際に労働した通り申請しにくい雰囲気があり、過少申告する傾向が強い場合が、このタイプです。経営者からみれば、同じ成果を出すためにより多くの時間を要する人材に対して、効率よく同じ成果を出す人材よりも多くの賃金を支払うことになり、矛盾を感じる部分もあると思います。これは、労働基準法の前身が戦前の工場法をモデルとしていて単純労働を前提としているため生じてきた矛盾と言えます。

「長時間労働=高賃金」という構図は、知的労働者には必ずしも当てはまらないと言えますが、法律である以上、守る必要があります。割増賃金を支払うという法律は守った上で、その他の人材マネジメントの運用で、有能な人とそれ以外の人の処遇を適切に区別していくことが適切な経営であると思います。基本給の見直しや昇降給、昇降格、賞与制度の見直し、配置転換等を含めて、やれることはたくさんあります。

 

2. 定額型

毎月、一定額の割増賃金を予め決めた固定額で支払うが、それに対応する残業時間を超えて働いてもそれ以上は支払われないタイプ。このタイプの経営者は、残業代を支払っているという意識が強く違法意識がないという場合が結構あるのではないかと思います。実際に所定労働時間を超えて稼働した時間に相当する割増賃金の額が、あらかじめ支払っている固定額を超えた場合、差額を支払う義務が生じます。

固定額が何時間分の時間外労働手当に相当するのか給与規程に規定しておらず、社員にも周知徹底されていない場合は、固定額が残業手当見合い分とは認められず、時間外労働相当の全額を改めて支払うよう命じられることもあるので注意が必要です。

3. 年俸制組み込み型

プロフェッショナル志向の強い業種・職種や外資系企業などでよくみられます。個人ごとに決められた年俸の一部が時間外労働手当見合い分であるという説明が入社時になされているが、実際に何時間分の時間外手当が含まれているのか明確でなかったり、何時間分かが明確であったとしても、就業規則への明記を含めて社員への周知徹底がなされていなかったりする場合、労基署の調査では認められない可能性が極めて高いといえます。


妥当な水準の時間外労働時間数を設定すること、並びに、就業規則への記載に留まらず、その他の手段を通じた社員への周知徹底を行うことがこのタイプを実施する場合の大前提ですね。但し、万一、裁判になった時に勝てるという保証はありません。

また、後付けの形で、実は年俸に残業代も含まれていたと説明をするのは、「周知徹底が図られていなかった」ということで、経営者側にとっては、極めて不利な状況になるかと思います。別途上乗せの手当を支給することにするか、そのような余裕がない場合、個別同意書をとって年俸構成の見直しを進めることになるかと思います。

 

4. 名ばかり管理職型

数年前に外食産業や流通業で社会問題化した「名ばかり管理職」に対して、残業代を払わない場合も、違法となります。労働基準法上、管理監督者は、時間外労働手当の支給対象者ではなくなりますが、誰でも管理監督者にしてしまってよいかと言えば、当然そういうことはできません。

管理監督者にふさわしい処遇を受けているかという観点から、自社の社員でどの階層までが管理監督者と言えるのか、客観的に判断する必要があります。管理者としてふさわしい給与を受けているか、みずからの業務の遂行の手段・時間配分等を自律的に決定する権限を有するか、時間管理に関して非管理職の社員と異なる裁量があるか、部下がいて指揮命令権を有するか等、多面的な確認が必要です。


ほかにも経営者の違法認識がないタイプはまだありそうですので、回を分けてまたブログにまとめてみたいと思います。



 



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