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人員構成維持の重要性

横浜 社労士のビジネスブログ
2013.10.29


東日本大震災の復興需要と東京オリンピックの特需で、建設業界での強い需要が継続しています。ところが、震災復興もあまり進んでおらず、東京オリンピック関連施設の建設に関する様々な入札も不調に終わっているようです。
 
背景として、職人不足と労務費の高騰が指摘されており、この事態を受けて国土交通省は今年4月、公共投資関連の労務単価を大幅に引き上げ、全国平均で15.1%増という人件費の上昇を認めました。しかし、それでも関連施設の入札は不調で、全ての建設会社が入札を辞退するという状況があちこちで生じているということです。たとえば、オリンピック会場として新しく作る予定の「武蔵野の森総合スポーツ施設」、これは近代5種の競技会場となる予定ですが、今年4月に労務費高騰を加味して入札価格を大幅にアップしたにもかかわらず、入札に参加した業者はすべて辞退となりました。
 
以下、AERA 2013年10月7日号より転載
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都は、悲願の五輪招致決定を受けて、9月に予定価格を引き上げたうえで再入札に踏み切った。予定価格はメインアリーナが8億1990万円増(8.5%増)の105億1085万円、サブアリーナ・プールは2億509万円増(2.9%増)の72億9785万円だ。最新の労務単価と資材価格で再積算したという。
 
発注内容も見直した。外構工事や味の素スタジアムへの連絡橋の新設、歩道橋の移設などをとりやめ、天井材のグレードを下げるなど仕様も落とした。それでも、発注の価格は引き上げた。
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この記事にあるように、価格を上方修正し、且つ発注内容もダウングレードすることで、今月二度目の入札でやっと落札されたということです。
 
リーマンショックの後に建設業界で働く人が減少したということですが、さらに遡ると、バブル期には約700万人だった建設業界の人員数が、現在は500万人を切っている状況で3割減少しています。
 
また先に引用したAERAの記事によると、人員構成もいびつになっており、高齢層と若年層に人材が二極化しており、経験を積んだ中堅層がごっそり抜け、技術の伝承も十分にできない状況にあるということです。これは政府の公共投資がバブル期以降、大幅に削減されてきたことも関係ありそうです。1990年代後半に80兆円台だった公共投資が、2012年には民主党の「コンクリートから人へ」のスローガンのもと40兆円余りに削減されています。
 
企業は生き延びなければいけませんので、短期的に需要が低下すれば、人件費を含めて切り詰めてやりくりしなければなりませんが、長期的な視点に立って健全な人員構成を維持していないと、現在の建設業界のように、仕事があるが人がいないという状況になるリスクもあります。
 
厳しい経営環境の中で、人件費を維持するということは大変なことですが、最近どこでも見られるようになった希望退職を実施して人員を削減するような場合でも、人員構成の観点からは、細心の留意が必要です。希望退職では、概ね40歳以上ぐらいの年齢層が対象になることが多いと思いますが、この層がごっそり抜けた後の5年後、10年後に、競争力の源泉である技術や目に見えない無形の資産が確実に次世代に受け継がれていくかどうか、見極めることも必要でしょう。「そうしたいのは山々だが、背に腹は替えられない」という声も聞こえてきそうですが。
 
人事デューデリジェンスを実施する際は、人件費の将来シミュレーションが買収価格の算定の上で重要な位置づけを占めますが、ややもすると、こういった長期的な観点に立った人員構成の変化まで含めてシミュレーションを行うケースは、少ないと思います。特に買収者が投資ファンドの場合は、5~7年ぐらいの短期で売却を想定していることが多いですから、あまり長期的な観点からの考察は手厚くしない傾向が見られます。
 
人事コンサルタントとしては、健全な人員構成の維持と短期的なコスト削減のベストバランスとなるポイントを見極め、課題提起していくということも重要な仕事だと認識しています。いずれ売却するとしても、健全な人員構成をはじめとした定性的な組織力の高さというものは、もっと注目されてしかるべきですし、これからその重要性を強く認識するM&Aプレーヤーも増えてくることと思います。いわゆるストラテジックバイヤー(M&Aにおける買い手で事業会社などを指す)は、こういった定性的な財務諸表に直接現れない強み・弱みを丁寧にデューデリジェンスで検証する傾向が強いですね。


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